資金調達 2020.01.15

IT事業者の助成金・補助金活用による構造改革

これまで日本のIT事業者、特にSI、ソフトウェア受託開発といった情報サービス業界は、技術者を一定数確保して、エンドユーザや大手情報サービス企業に派遣することで収益を上げてきました。しかしながら、企業のシステム開発コストが下落したことや、その対応策として、オフショアなどによる中国・インドはもとより東南アジア諸国の外国人技術者の活用が進み、技術者の単価も下落し続けています。一方で多重派遣や深夜残業など長時間労働が常態化し、「IT企業=ブラック」のイメージから学生自体から敬遠され技術者確保もままならない状況となっています。さらにはクラウド、AIなどの台頭によって技術者に求められるスキルも大きく変化しており、このニーズに対応した技術者の確保も必要不可欠になっています。ソフトウェアを中心とする情報サービス産業の基本はあくまで「人」です。この市場ニーズに合わせた技術者を確保し、収益を向上させていくためには、助成金や補助金などを有効に活用しつつ、人を育成する投資をしていく必要があるのではないでしょうか。それでは助成金、補助金を活用して情報サービス業の人材育成や収益構造を変化していくべきかを見ていきましょう。

社員のキャリア、技術力を高める

これまでIT業界では、入社後数ヶ月間の新人研修でプログラミングなどの研修を行っただけで、あとはOJTが中心で客先に派遣するというのが一般的でした。さらに言えば、自社での教育ではなく派遣した客先の一員として客先の経費としてプロジェクトに必要なスキルを習得するようなケースもあったのではないでしょうか。しかしながらプログラミングなどの基礎的な教育を行っただけの技術者を受け入れるほど、客先の状況や技術の変化のスピードは甘いものではありません。この状況を続けている限り客先のニーズと技術者のスキルのミスマッチが発生します。これに対応するために市場や客先が求めるスキルを研修で身につけさせることや、技術者の中長期的なキャリアを形成することも必要です。これには「人材開発支援助成金」の活用が有効です。これには社員の教育研修だけでなく、社員の中長期的なキャリア形成を支援する「キャリアコンサルタント」の活用や教育研修中の人件費の補助などもあり、単なる研修だけでなく自社の方向性に合わせた人材育成計画に基づいた施策を立案・実施することもできるのです。

有能な人材を確保する

いまIT業界では空前の人材不足といわれ、案件や仕事があっても技術者がいない状況といわれています。これは長時間労働、ブラック企業といわれて新しくIT企業に入ってくる人材が少ないことが原因の1つと考えられます。しかし新卒や若年層にだけ目を向けるだけでなく、他社でキャリアを積んだ中高年のベテラン技術者や育児や介護など外で働くことのできない技術者を活用することも検討するのはどうでしょうか。このようなケースでは「特定就職者雇用開発助成金」や「65歳超雇用推進助成金」などを活用して、中高年の経験ノウハウを生かして自社の事業に寄与させることもできるのです。
また、近年テレワーク(リモートワーク)を活用した仕事の仕方も注目されており、「テレワーク活用・働く女性応援助成金」を活用しテレワークの環境を整え、技術者を確保する方法もあるのです。

新商品開発のための補助金

AppleやGoogleのように、海外にはITを活用した新しいサービスが誕生しています。国内でもFreeeやSmartHR、チャットワークなどのアプリケーションやAI分野を中心にスタートアップのベンチャー企業がアイデアと技術力をベースに次々と新しい商品、サービスが生まれています。しかしながら今まで請負や技術者派遣だった企業では、製品開発を単横する人材確保や製品開発コストの面でうまくいっていないケースが多いのではないでしょうか。この資金を調達するには新製品・新技術開発を対象とした補助金を活用することも有効ではないでしょうか。

国内のIT企業はいま大きな岐路に立っています。これまで収益の土台を支えていたSESや派遣ビジネスからの脱却を目指していくためには助成金や補助金も活用した事業構造改革も必要ではないでしょうか。

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