なぜ今中小企業でM&Aが注目されているか
M&Aとは「合併と買収」という意味で、今までは主に大企業が行う大型の企業買収などがニュースになってきました。ただ、最近では、中小企業においてもM&Aが増加していることがニュースとなることがあります。これはなぜなのでしょうか。
その背景となる現状と、中小企業を取り巻く環境から、その理由について説明していきます。
中小企業のM&Aは増加しているのか。
そもそも、中小企業のM&Aはどんな現状なのでしょうか
日本における大型案件としてのM&Aは、レコフデータの調査によると、過去からは増加傾向にあります。一度リーマンショックによって減少に転じたものの、2011年からはまた右肩上がりで増加を続けており、2017年には3,050件と過去最高を記録しています。
これは公表されている大型案件の状況で、中小企業のM&Aについては、公表されていないものが多数あると思われます。
そこで2018年の中小企業白書において、中小企業のM&Aの動向をつかむため、東証一部に上場している中小企業のM&A仲介会社3社の取り扱い件数の推移を調査しております。その結果、こちらも右肩上がりの増加傾向が続いており、2017年の取り扱い件数が526社となり、2012年との比較では3倍超に増加しています。
中小企業のM&A増加の背景
では、なぜこのように中小企業のM&Aが増加しているのでしょうか。
その背景として、中小企業の事業承継問題が主要因に挙げられると思われます。
2018年の中小企業白書によると、日本の中小企業では、過去の高度成長期における中小企業の増加の影響から、代表者の高年齢化が進んでいます。中小企業の経営者の年齢別構成者数のピークが、1995年には47歳であったものが、2015年には66歳となっており、中小企業の経営者の高齢化が着実に進んでいる事が見て取れます。
また、これらの企業の中には後継者不在の企業が多くあり、同じく中小企業白書によると、60歳以上の経営者のうち48.7%が後継者不在の状況であるという結果が出ています。
このことから、経営者の高齢化が進んでいる中小企業では、後継者難の状況が深刻化しており、その解決策の一つとして、中小企業のM&Aに注目が集まっているものと言えます。
また、中小企業を取り巻く経営環境が大きく変化しており、人員不足と設備の老朽化が進んでいることに合わせ、マーケットの変化スピードが加速しており、自社のリソースだけでの対応が難しくなっていることから、M&Aにより対応を図っていることもその背景にあります。
中小企業と銀行との関係の変化
また、中小企業のM&Aに注目が集まっている背景には、地方銀行が置かれている経営環境の変化もあります。
なぜ、銀行の経営環境の変化が、中小企業のM&Aと関係するのでしょうか。
地方銀行は、本業である融資や国債などによる資産運用だけで稼ぐビシネスモデルに限界が来ており、新たな収益源の開拓に積極的に取り組んでいます。
その中で、中小企業のM&Aによる手数料収入は、有力な収益源と注目されています。
先述のように、中小企業経営者の高齢化から事業承継に対する対策ニーズが高まっており、地方銀行が融資業務を通じて保有している中小企業の経営情報がM&Aの有力な情報になることから、各銀行も中小企業のM&A推進に力を入れているのです。
そのような地方銀行の動きを、中小企業専門のM&A仲介業者の登場が加速させており、実際の取り組み件数が増えているという背景もあるのです。
いかがでしたでしょうか。このように、中小企業のM&Aは、経営者の高齢化という構造的な要因に加え、中小企業の経営環境の変化に対するニーズと地方銀行の収益構造変化への対応という別要因からも加速傾向にあり、今後しばらくは活況を呈するものと考えられます。