中小企業診断士が教える資金繰り改善ポイント
中小企業の経営者にとって、資金繰りのことは、一番身近でかつ最も重要な悩みといえるのではないでしょうか。利益が出ているはずなのに、資金繰りが苦しい。そういう時には、何か利益とは違う会社の状況が資金繰りに影響している場合があります。
今回は、資金繰りに向けた改善の着眼点と、その改善ポイントについて、解説します。
資金繰り改善の着眼点
資金繰り改善の基本は、何と言っても利益をきちんと確保することが最優先です。事業が赤字では資金繰りが苦しくなるのは当たり前だからです。
ただ、決算上では利益を計上していても、資金繰りが苦しくなる場合があります。そのような場合にはどうすればいいのでしょうか。
利益が出ているのに資金繰りが厳しい場合には、自社の状況を以下の2つの着眼点から分析する必要があります。
第一に、「商慣習からくる資金サイクル」という着眼点です。
どの企業・業界にも、その業界独特の商慣習があります。その商慣習と自社の事業活動の方向性によって、資金繰りを大きく左右することがあります。この着眼点では、商慣習に対応することで資金繰りを改善することが可能です。
第二に、「借入金の借り方と利益水準のバランス」という着眼点です。
中小企業で無借金経営している企業は少ないと思います。借入金がある以上、かならず借入金の返済が資金繰りを左右します。自社の資金構造・利益水準と、借入金の借り方とのマッチングが図られていない場合には、資金繰りが利益の状況と乖離するため、この着眼点ではそのバランスを是正することで資金繰りを改善することが可能です。
では、次項では、着眼点ごとに、資金繰りの改善ポイントを見てみましょう。
資金繰り改善のポイント (資金サイクルの着眼点)
その業界の商慣習で、売上を回収するまでの回収期間と、原価・経費を支払うまでの支払期間のバランスが悪いため、資金繰りに悪影響を与えるケースがあります。
一番顕著な例を挙げると、建設業があります。
建設業では、施主もしくは元請からの支払いを受けるには、工事がある程度進行するか、工事が完成・引き渡しをするタイミングまで支払われないケースが往々にしてあります。しかしながら、工事原価(材料・賃金)は工事の進行に合わせて支払うことが多く、必然的に立替払いが多くなります。そのような状況では、どんなに利益が出ていても資金繰りは悪化していきます。しかも、売上が増加すればするほど、資金繰りが厳しくなります。
このような場合には、回収期間の短縮と支払期間の長期化を組み合わせて、自社が恒常的に立替払いをする必要性を圧縮することが何よりも肝要です。
売上の締日・回収日と支払の締日・支払日の設定方法によっても、場合によっては月商の0.5カ月~1カ月程度の資金負担が違ってきますので、細かい注意が必要です。
資金繰り改善のポイント(借入金返済の問題)
前項のような資金サイクルに問題がない場合には、利益水準と借入金の返済額のバランスに問題がある可能性があります。
企業の損益計算書には、売上高・売上原価・経費等のことは載っていますが、売掛金・買掛金や借入金などの貸借対照表に関するお金の動きは載っていません。
そのため、損益計算書では利益が出ていても、それ以上に借入金の返済元金がある場合には手許の現金は減少して、資金繰りは悪化していきます。
このような場合には、自社の利益水準および前述の資金サイクルの構造に合わせた、借入金の返済方法に調整していく必要があります。
借入金に対して根本的に利益水準が足りていない場合には、利益の底上げが必要となりますが、十分な利益水準を確保している場合(例えば、毎年の利益額の5倍程度の借入金残高の場合)には、銀行と交渉して、長期借入金の一本化・長期化などで返済金額を調整するだけで、資金繰りが安定する可能性があります。短期借入金と長期借入金の組み合わせを調整することも有効な手段です。
上記のように、企業の資金繰りには、利益だけではない要因が影響しており、しかもそれらが複合して作用するため、一見しては原因が分からないことがあります。
上記の着眼点から自社の資金繰りを見直して、改善を図っていきましょう。